アマルティア・センの『集合的選択と社会的厚生』を開く

II.読解のポイントを探る 【P.223, L.18】

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検討項目

位置 検討する部分 種別 訂正案, コメント
P.223 L.18 (定理10*9について) X



証明の流れについて

  • 「個人の選好のチェーンの集合が多数決決定SWFの定義域に属する」→「あらゆる3選択肢集合が価値制限(VR)を満たす」が成立することと,逆向きの矢印が成立しないことを確認しようとしています。(なお,チェーンは順序の特別な場合でした。)
  • SWFの定義域に属するのは,社会的選好関係が順序性(反射性・完備性・推移性)を満たすときでした。多数決決定法の場合,反射性と完備性が満たされるのは当然ですので,推移性の成立が1つのポイントになります。

必要性の確認

  • 「個人の選好のチェーンの集合が多数決決定SWFの定義域に属する」→「あらゆる3選択肢集合が価値制限(VR)を満たす」の確認です。
  • 定理10*7では,「個人の選好の(「完全無差別以外の順序」に限定された)集合が多数決決定SWFの定義域に属する」⇔「あらゆる3選択肢集合が極値制限(ER)を満たす」を示しました。
  • チェーンの集合は,"「完全無差別以外の順序」に限定された集合"の一種でした。 よって,定理10*7を介して,「個人の選好のチェーンの集合が多数決決定SWFの定義域に属する」→「個人の選好の(「完全無差別以外の順序」に限定された)集合が多数決決定SWFの定義域に属する」→「あらゆる3選択肢集合が極値制限(ER)を満たす」が成立します。(最後の「→」は「⇔」でもよいのですが。)
  • つまり,「個人の選好のチェーンの集合が多数決決定SWFの定義域に属する」→「あらゆる3選択肢集合が極値制限(ER)を満たす」ことが確認されました。
  • さらに,補題10*eより,個人的選好がチェーン(反対称的)の場合には,ER→VRが成立するので,「個人の選好のチェーンの集合が多数決決定SWFの定義域に属する」→「あらゆる3選択肢集合が価値制限(VR)を満たす」が得られます。
  • 以上より,必要性を確認できました。

十分性(が満たされないこと)の確認

  • 「個人の選好のチェーンの集合が多数決決定SWFの定義域に属する」←「あらゆる3選択肢集合が価値制限(VR)を満たす」が成立しないことの確認です。
  • VRが満たされるのに,社会的選好関係が推移性を満たさない例を1つ示し,反例を挙げるかたちで議論しようとしています。
  • 書籍の2人の選好を見比べると,xが「最悪でない」,yが「最良でない」,zが「中間でない」といった特徴があり,VRが満たされています。
  • さて,書籍の2人がいる状況で,xPy, yIz, xIzの社会的選好関係が導かれるのはよいでしょう。このとき,(推移性が成立していれば,xPyかつyIz→xPzでなければならないはずですから)社会的選好関係について推移性が成立していないことが判ります。
  • 以上,十分性が満たされないことが確認できました。

必要十分条件について

  • 「定理10*7で与えられた通り」とされており,つまり,「個人の選好のチェーンの集合が多数決決定SWFの定義域に属する」⇔「あらゆる3選択肢集合が極値制限(ER)を満たす」の意味と考えられます。
  • 必要性,すなわち「個人の選好のチェーンの集合が多数決決定SWFの定義域に属する」→「あらゆる3選択肢集合が極値制限(ER)を満たす」については,すでに上述の議論で確認済みでした。
  • 十分性,すなわち「個人の選好のチェーンの集合が多数決決定SWFの定義域に属する」←「あらゆる3選択肢集合が極値制限(ER)を満たす」については,定理10*4(P.215)から理解できます。(定理10*7でも,定理10*4に基づいて十分性を確認していました。)





本ページの概要とお願い:
  • 本ホームページは,Amartya Sen先生の『集合的選択と社会的厚生』(日本語版, 勁草書房)の 特定の記述項目について,読む上でのポイントを考えるものです。
  • 本ホームページの主旨や注意などについては,こちら(「読解のポイントを探る」項目リストページ)をご覧下さい。




[2015年8月15日 初版をアップ] (最終アップデート:2015年11月23日)


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