アマルティア・センの『集合的選択と社会的厚生』を開く

II.読解のポイントを探る 【P.220, L.18】

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検討項目

位置 検討する部分 種別 訂正案, コメント
P.220 L.18 (定理10*6について) X



  • SDFの定義域に含まれる場合,社会的選好関係が準推移性を満たします。(反射性と完備性も必要ですが,多数決決定法が反射性と完備性を満たすことは当然なので,準推移性がポイントとなります。)
  • 社会的選好関係の準推移性について,VR, LA, ERはそれぞれ十分性が確認されていました。
    • VR(価値制限)の十分性は定理10*1(P.212)で確認されていました。
    • LA(限定的同意)の十分性は定理10*2(P.213)で確認されていました。
    • ER(極値制限)の十分性は定理10*4(P.215)で確認されていました(この場合は,準推移性だけでなく推移性が確認されていました。)。
  • よって必要性のみを確認しようとしています。(VR, LA, ERのうち少なくとも1つが満たされることが必要であること,つまり,VR, LA, ERの3つ全てが成立しないならば,準推移性が満たされないことを確認していきます。)
  • 補題10*b(P.210)とその証明で,VR, LA, ERの3つ全てが成立しないならば,そのような集合は中に特定の3順序からなる組(本質的に8種類あり,この集合をΩと呼んだのでした)を含むことを確認していました。

[1.1, 2.1 or 2.3, 3.1 or 3.2]の場合の確認

  • N1>N2, N1>N3, (N2+N3)>N1と仮定して確認しようとしています(このようなN1, N2, N3は,N1=3, N2=N3=2という書籍の説明例のように,確かに存在します。)
  • この仮定の下では,4つの場合(2.1 or 2.3で2ケース × 3.1 or 3.2で2ケース)全てについて「xPyかつyPzかつzPx」が成立してしまうと議論されています。この点は,例えば以下のように確認できます。
  • [1.1, 2.1, 3.1]の場合
    • N1=N(1.1), N2=N2(2.1), N3=N3(3.1)の場合です。
    • 個人レベルでxPyであるのは(1.1)と(3.1),個人レベルでyPxであるのは(2.1)です。
    • そこで,社会レベルのxPyについては,xPy ⇔ (N(1.1)+N(3.1) > N(2.1))となりますが,この右辺は成立します(N1>N2より,(N1+N3) > (N2+N3) >N2であるためです)。よって,社会レベルのxPyの成立が確認できました。(以下,同様に進むことにします。)
    • yPz ⇔ N(1.1)+N(2.1) > N(3.1)ですが,右辺は成立します(N1>N3より,(N1+N2) > (N3+N2) > N3であるためです)。よって,yPzの成立が確認できました。
    • zPx ⇔ N(2.1) + N(3.1) > N(1.1) ですが,右辺は成立します(もともと(N2+N3) > N1であるためです)。よって,zPxの成立も確認できました。
  • [1.1, 2.1, 3.2]の場合
    • N1=N(1.1), N2=N2(2.1), N3=N3(3.2)の場合です。
    • xPy ⇔ N(1.1) > N(2.1)ですが,右辺は成立します(もともとN1>N2であるためです)。よって,xPyの成立が確認できました。
    • yPz ⇔ N(1.1)+N(2.1) > N(3.2)ですが,右辺は成立します(N1>N3より,(N1+N2) > (N3+N2) > N3であるためです)。よって,yPzの成立が確認できました。
    • zPx ⇔ N(2.1) + N(3.2) > N(1.1) ですが,右辺は成立します(もともと(N2+N3) > N1であるためです)。よって,zPxの成立も確認できました。
  • [1.1, 2.3, 3.1]の場合
    • N1=N(1.1), N2=N2(2.3), N3=N3(3.1)の場合です。
    • xPy ⇔ (N(1.1) + N(3.1) > N(2.3))であり,右辺は成立します(N1>N2より,(N1+N3) > N2であるためです)。よって,xPyの成立が確認できました。
    • yPz ⇔ (N(1.1) > N(3.1)ですが,右辺は成立します(もともと,N1>N3であるためです)。よって,yPzの成立が確認できました。
    • zPx ⇔ (N(2.3) + N(3.1) > N(1.1))であり,右辺は成立します(もともと(N2+N3)> N1であるためです)。よって,zPxの成立も確認できました。
  • [1.1, 2.3, 3.2]の場合
    • N1=N(1.1), N2=N2(2.3), N3=N3(3.2)の場合です。
    • xPy ⇔ (N(1.1) > N(2.3))であり,右辺は成立します(もともと N1>N2であるためです)。よって,xPyの成立が確認できました。
    • yPz ⇔ (N(1.1) > N(3.2)ですが,右辺は成立します(もともと N1>N3であるためです)。よって,yPzの成立が確認できました。
    • zPx ⇔ (N(2.3) + N(3.1) > N(1.1))であり,右辺は成立します(もともと(N2+N3)> N1であるためです)。よって,zPxの成立も確認できました。

[1.1, 2.1 or 2.3, 3.3]の場合の確認

  • N2>N1>N3, (N1+N3)>N2と仮定すると,2つの場合(2.1 or 2.3で2ケース)双方について「xPyかつyPzかつzPx」が成立してしまうと書かれています(このようなN1, N2, N3は,N1=3, N2=4, N3=2という書籍の説明例のように,確かに存在します)。この点は,例えば以下のように確認できます。
  • [1.1, 2.1, 3.3]の場合
    • N1=N(1.1), N2=N2(2.1), N3=N3(3.3)の場合です。
    • xPy ⇔ (N(1.1) + N(3.3) > N(2.1))であり,右辺は成立します(もともと(N1+N3) > N2であるためです)。よって,xPyの成立が確認できました。
    • yPz ⇔ (N(1.1) + N(2.1) > N(3.3)ですが,右辺は成立します(N1>N3より,(N1+N2)>N3であるためです)。よって,yPzの成立が確認できました。
    • zPx ⇔ (N(2.1) > N(1.1))であり,右辺は成立します(もともとN2>N1であるためです)。よって,zPxの成立も確認できました。
  • [1.1, 2.3, 3.3]の場合
    • N1=N(1.1), N2=N2(2.3), N3=N3(3.3)の場合です。
    • xPy ⇔ (N(1.1) + N(3.3) > N(2.3))であり,右辺は成立します(もともと(N1+N3) > N2であるためです)。よって,xPyの成立が確認できました。
    • yPz ⇔ (N(1.1) > N(3.3)ですが,右辺は成立します(もともとN1>N3であるためです)。よって,yPzの成立が確認できました。
    • zPx ⇔ (N(2.3) > N(1.1))であり,右辺は成立します(もともとN2>N1であるためです)。よって,zPxの成立も確認できました。

[1.1, 2.2, 3.1 or 3.2]の場合の確認

  • N3>N1>N2, (N1+N2)>N3と仮定すると,2つの場合(3.1 or 3.2で2ケース)双方について「xPyかつyPzかつzPx」が成立してしまうと書かれています(このようなN1, N2, N3は,N1=3, N2=2, N3=4という書籍の説明例のように,確かに存在します)。この点は,例えば以下のように確認できます。
  • [1.1, 2.2, 3.1]の場合
    • N1=N(1.1), N2=N2(2.2), N3=N3(3.1)の場合です。
    • xPy ⇔ (N(1.1) + N(3.1) > N(2.2))であり,右辺は成立します(N1>N2より,(N1+N3) > N2であるためです)。よって,xPyの成立が確認できました。
    • yPz ⇔ (N(1.1) + N(2.2) > N(3.1)ですが,右辺は成立します(もともと(N1+N2)>N3であるためです)。よって,yPzの成立が確認できました。
    • zPx ⇔ (N(3.1) > N(1.1))であり,右辺は成立します(もともとN3>N1であるためです)。よって,zPxの成立も確認できました。
  • [1.1, 2.2, 3.2]の場合
    • N1=N(1.1), N2=N2(2.2), N3=N3(3.2)の場合です。
    • xPy ⇔ (N(1.1) > N(2.2))であり,右辺は成立します(もともとN1>N2であるためです)。よって,xPyの成立が確認できました。
    • yPz ⇔ (N(1.1) + N(2.2) > N(3.2)ですが,右辺は成立します(もともと(N1+N2)>N3であるためです)。よって,yPzの成立が確認できました。
    • zPx ⇔ (N(3.2) > N(1.1))であり,右辺は成立します(もともとN3>N1であるためです)。よって,zPxの成立も確認できました。
  • 以上,8つの場合すべてについて,ある種の個人的な選好の布置のもとでは,準推移性を満足しない(つまり選択関数を生成しない)社会的な選好関係が導かれてしまうことが確認できました。
  • VR, ER, LAの全てに反するのは(本質的に)この8つの場合のみですから,結局,VR, ER, LAの全てに反した場合には,どうしても(ある種の選好の布置のもとで)選択関数を生成しない選好関係が導かれてしまうことが確認できたことになります。
  • 以上をもって,VR, ER, LAのうち少なくとも1つを満たすことが必要であるということの確認(必要性の確認)が終わり,証明終了となります。





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[2015年8月15日 初版をアップ]

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