アマルティア・センの『集合的選択と社会的厚生』を開く

II.読解のポイントを探る 【P.219, L.1】

dss50.org

 

検討項目

位置 検討する部分 種別 訂正案, コメント
P.219 L.1 (定理10*5について) X



証明手順の確認

  • 極値制限(ER)を満たしていながら準推移性が崩れる例を示すことで,証明しようとしています。
  • ERを満たす可能な順序のセットとして,(1), (2), (3), (4)の組み合わせを設定しました。
  • 本文の説明より,N=3+2q(人)です。また,
    • xとyの比較に際しては,N*=N=3+2q(人)です。
      このとき,pN+(1-p)N*=3+2qになります。
    • yとzの比較に際しては,N*=N=3+2q(人)です。
      このとき,pN+(1-p)N*=3+2qになります。
    • zとxの比較に際しては,N*=3(人)です。((3)と(4)のケースの個人が関与しないためです。)
      このとき,pN+(1-p)N*=p(3+2q)+(1-p)×3=2pq+3 > 5になります。
      ((1/q)< p より 1 < pqで,よって 3 + 2pq > 5です。)
  • xとyの比較
    • N(xPy)= N1 + N4 = 2 + q
    • よって,N(xPy)/[pN + (1-p)N*]=(2+q)/(3+2q) > (2+q)/(4+2q) = (1/2)
    • よってxPyが成立します。(「これに加えて...」の定義により,同時に〜(yRx)が成立することになります。)
    • なお,念のためN(yPx)を確認すると,N(yPx)= N2 + N3 = 1 + q
    • よって,N(yPx)/[pN + (1-p)N*]=(1+q)/(3+2q) < (1+q)/(2+2q) = (1/2)
    • よってyPxは成立しません。(xRyが成立することになります。)
  • yとzの比較
    • N(yPz)= N1 + N3 = 2 + q
    • よって,N(yPz)/[pN + (1-p)N*]=(2+q)/(3+2q) > (2+q)/(4+2q) = (1/2)
    • よってyPzが成立します。(「これに加えて...」の定義により,同時に〜(zRy)が成立することになります。)
    • なお,念のためN(zPy)を確認すると,N(yPx)= N2 + N4 = 1 + q
    • よって,N(zPy)/[pN + (1-p)N*]=(1+q)/(3+2q) < (1+q)/(2+2q) = (1/2)
    • よってzPyは成立しません。(yRzが成立することになります。)
  • xとzの比較
    • N(xPz)= N1 = 2
    • よって,N(xPz)/[pN + (1-p)N*]= 2 /(3+2pq) < 2/ 5 < 1/2
      (「3 + 2pq >5」でした。)
    • よってxPzが成立しません。(「これに加えて...」の定義により,同時に zRxが成立することになります。)
    • また,N(zPx)= N2 = 1
    • よって,N(zPx)/[pN + (1-p)N*]= 1 /(3+2q) < 1/2。
    • よってzPxが成立しません。(xRzが成立することになります。)
    • zRxかつxRzなので,xIzとなります。
  • 以上より,xPyかつyPzであるのに,xIzとなり,xPzが得られなかったことになります。
  • どれほどpを小さくしても,( 0 < (1/q) < p の条件に合う整数qは存在するため)準推移性に反するケースは残り続けます。以上の確認をもって証明終了となります。





本ページの概要とお願い:
  • 本ホームページは,Amartya Sen先生の『集合的選択と社会的厚生』(日本語版, 勁草書房)の 特定の記述項目について,読む上でのポイントを考えるものです。
  • 本ホームページの主旨や注意などについては,こちら(「読解のポイントを探る」項目リストページ)をご覧下さい。




[2015年8月1日 初版をアップ]

「アマルティア・センの『集合的選択と社会的厚生』を開く」のトップページに戻る
「読解のポイントを探る」(項目リストページ)に戻る