アマルティア・センの『集合的選択と社会的厚生』を開く

II.読解のポイントを探る 【P.38 L.16】

dss50.org

 

検討項目

位置 検討する部分 種別 訂正案, コメント
P.38 L.16 (補題2*bについて) X



  • 補題は冒頭の(A)「#Rが.....のある集合的選択ルールとなる」と(B) 「∀x, y ......xRyj]」(式の部分)が同値であることを主張しています。 (本HPでは文字の上のラインを#で表します。#の意味は以下同様。)

  • 証明の最初から3行目途中までは,(B)→(A)を証明しています。

    • どの個人iについても,xIiyか, xPiyか,yPixのいずれかが成立します。(第2章では各個人の選好に完備性を前提しているからです←P.37 L.5「われわれは各人が順序をもっているとする。」)

    • そこで,全体としては,「すべてのiにとってxIiy」と,「何らかのiにとってxPiy(もしくは何らかのiにとってyPix)」は必ずどちらか一方が成立します。

    • 何らかのiにとってyPixのケースは,何らかのiにとってxPiyのケースと同時成立する場合もあるし,単独成立する場合もあります。ただ,いずれにせよ何らかのiにとってxPiyの場合と証明手順が同じになるため,書籍では議論が省略されています。本HPでも,そのように議論を進めます。)

    • すべてのiにとってxIiy」ならば, (B)の→の前半部がもともと成立しないので(B)全体は成立しています。 また,「すべてのiにとってxIiy」ということは,定義2*3(P.37-38)から,x#Iyです。つまり,この場合は,社会レベルでもxとyは無差別であるといえ(社会レベルでxとyは比較できている),xとyについて完備性は問題ないことになります。

    • 何らかのiにとってxPiy」ならば, (B)の式の形から∀j:xRjyということになります。 よって,P.37の定義2*3の(1)からx#Ryということになり,社会レベルでxとyについて完備性は問題ないことになります。

    • 以上より,(B)→(A)は証明されました。

  • 証明の3行目途中から最後は,(A)→(B)を(対偶をとってnot(B)→not(A)のかたちで)証明しています。

    • 「条件が破られる」とは(B)が成立しないならばということです。

    • よって,これは,(Xに属するあるx, yについて)あるiが存在してxPiyであるにも関わらず(Bの式の→の前半部が成立しているにも関わらず),あるjについてyPjxとなる(Bの式の→の後半部が成立しない)ということです。

    • このようなx, yについては,P.37の定義2*3(1)からx#Ryもy#Rxも成立しないのですから,社会レベルで完備性が成立しないことになります。

    • よって,not(B)→not(A)を確認でき,(A)→(B)が証明されました。






本ページの概要とお願い:
  • 本ホームページは,Amartya Sen先生の『集合的選択と社会的厚生』(日本語版, 勁草書房)の 特定の記述項目について,読む上でのポイントを考えるものです。
  • 本ホームページの主旨や注意などについては,こちら(「読解のポイントを探る」項目リストページ)をご覧下さい。




[2011年7月13日 初版をアップ](最終アップデート:2015年8月21日)


「アマルティア・センの『集合的選択と社会的厚生』を開く」のトップページに戻る
「読解のポイントを探る」(項目リストページ)に戻る