アマルティア・センの『集合的選択と社会的厚生』を開く

II.読解のポイントを探る 【p.22 L.4】

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検討項目

位置 検討する部分 種別 訂正案, コメント
P.22 L.4 (補題1*kについて) X



  • 証明2行目「..を考えよ」まではよいと思います。
  • 次の「反射性と完備性より,この中に最良要素が存在する」は,例えば次のように理解できると思います。
    • 反射性から,xRx,yRyが成立します。
    • 完備性から,xとyに関して,xRyとyRxの少なくともどちらかが成立します。a)xRyのみ成立,b)yRxのみ成立,c)xRyとyRxが両方成立,の3ケースが考えられます。
    • つまり,a)xPyが成立, b)yPxが成立, c)xIyが成立の3ケースです。
    • a)では最良要素としてxがあります(xRyかつxRx)。同様に,b)ではyがあります(yRxかつyRy)。c)ではx, yがあります(xRyかつxRx, yRyかつyRy)。
    • 以上,3ケースすべてで最良要素が存在します。
  • 証明3行目の「証明は帰納法によって..」から 証明5行目の「すると, k=1, ..., jにたいして aj R xk が成り立つ」まではよいと思います(これが成り立つのは最良要素の定義です)。
  • 次は,これまでの最良要素 aj と新しく付け加えた xj+1を比較してケース分類しています。 「いずれにせよ新しい集合の中には最良要素が存在する」ことを確認する展開です。
  • ケース分類では,以下の2ケースしかありません。
    • xj+1Paj (つまり,xj+1Rajかつ~( aj R xj+1
    • aj R xj+1 (つまり, aj R xj+1 かつ ~( xj+1Raj) aj P xj+1) または aj R xj+1 かつ xj+1Raj aj I xj+1) )
    ※完備性があるので,2要素が比較不可能ということはありません。つまり,~(xj+1Raj)かつ~( aj R xj+1というケースは考慮不要です。
  • 証明6行目の「もし後者ならば,...の最良要素でもある」の文は, 上記の下のケースについて最良要素の存在を確認したことの説明で,これはよいでしょう。
  • 証明7行目の「もしも前者ならば」以降は,上記の上のケースについての説明で,下記のように理解できます。
    • xj+1が最良要素である」と示すことで最良要素の存在を確認するのが基本方針です。
    • この作業を「xj+1は最良要素でない」と仮定して矛盾を導く背理法で進めています。
    • 具体的には「 あるk=1, ..., jにたいして xk P xj+1 」と仮定して作業を始めました。 (この仮定が成立するときにのみ「xj+1は最良要素でない」というのは,最良要素の定義によります。)
    • さて,この「 あるk=1, ..., jにたいして xk P xj+1 」の仮定で,そのようなxkを実際に取り出し,先の xj+1Paj を考え合わせると, xk P aj が成立することになります( 下線部について準推移性を考えます)。
    • ですが,この xk P aj は,前述の k=1, ..., jにたいして aj R xk と矛盾するものです。
    • 以上で, 「xj+1は最良要素でない」と仮定すると矛盾が生じることが確認されました。
  • 2ケースのいずれについても, 最良要素が存在することが確認され,証明が終了することになります。






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  • 本ホームページは,Amartya Sen先生の『集合的選択と社会的厚生』(日本語版, 勁草書房)の 特定の記述項目について,読む上でのポイントを考えるものです。
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[2013年6月2日 初版をアップ] (最終アップデート 2013年6月12日)



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