検討項目
位置 |
検討する部分 |
種別 |
訂正案, コメント |
P.16 L.19 |
(補題1*bについて) |
X |
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- 本書の証明の最後でなぜ「anは極大」と結論できるのか,少し細かく確認します。
- x1, x2, ..., xnの集合をX,a1, a2, ..., anの集合をAとします。証明の手続きでAに含まれることになったXの要素をy1, y2, ... , ymとし(このとき1<=m<=n,またy1はa1 (x1),ymはanに対応します),この集合をYとしましょう。
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ym(つまりan)は,集合Yの中では極大要素です(最良要素でもあります)。このことは,証明手続きの中で,ymPy(m-1),y(m-1)Py(m-2), ...y2Py1が得られており,
そこで補題1*aの(4)を繰り返し適用することで,ym以外のYの全ての要素yに対してymPyが成立することから確認できます。
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ym(つまりan)は,集合Xの中でも極大要素です。
つまり,集合X-Y(Xに含まれYに含まれない要素からなる集合)の要素を考え合わせてもymは極大要素であり,Xの中にxPymとなるようなxは存在しません。
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このことを,(集合Yの要素はもうよいでしょうから)集合X-Yの要素に集中して確認してみます。
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ymが極大でなく,「集合X-Yの何らかの要素xがxPymをみたす」(極大要素の定義から)と仮定して,それが矛盾を導くという手順で確認しましょう。
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もともと,ある要素xが集合X-Yの要素となるのは,集合Yの何らかの要素yvに対して,1)yvPx, 2)yvIx(xIyv),3) yvRxとxRyvのどちらもが不成立(比較不可能)の3ケースのいずれかが成立した場合です。
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このyvですが,Yの中のすべての要素はPで連結された構造をもっていますから,補題1*aの(4)を繰り返し適用することで,「ymPyv」が成立しています。
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さて,「集合X-Yの何らかの要素xがxPymをみたす」とした上で,「ymPyv」が成立すると,補題1*aの(4)から,xPyvが成立することになります。しかしこれは,上述の1), 2), 3)のいずれとも矛盾しています。
- よって,
「集合X-Yの何らかの要素xがxPymをみたす」という仮定が矛盾を導くことから,要素ymが集合X全体でも極大要素であることが確認されました。
- この補題では,準順序性(反射性と推移性)が前提されていますが,証明は基本的に1*aに依存しており(そして1*aの証明で反射性は不要で推移性のみでこと足りましたので),結局,推移性のみが証明に使われ,反射性は不要であったことになります。
- (補題1*aについても同様ですが)反射性が不要である点は,あえてはっきりと言わず読者に自分で考えてもらうというのが著者の教育的配慮かもしれません。以下の点からそのように思います。
- P.16の脚注4が暗示的です。
- P.21で補題1*jの証明が省略されていることも注目されます。補題1*jの証明では「補題1*bにたいする証明と同様」と書いてありますが反射性が必要です。この証明を著者が書いてしまうと,先にP.21までページをめくった読者には1*bで反射性が不要であったことがはっきりして,
あえてはっきり言わなかった意味がなくなってしまいます。
- P.28の図1*1で,図が意図的に簡略化されているように思われます。各矢印に関係する「前提条件」が除かれています。反射性なしで推移性のみからII, IP, PI, PPが導ける図になっており,それは正しいのですが,一方で完備性が必要であるのにその点を省略する図にもなっているので,読者としては即断できません(反射性が必要であるのにその点も省略されているのではないか,という確認が必要になります)。P.28の図は,先にここまでページをめくってしまった読者にもある程度考えさせる設計があるように思われます。
- またP.21の補題1*jの証明省略と,P.28の図1*1の簡略化は,それぞれ補題1*bと補題1*aに関するヒントという位置づけもあるでしょう。当初に反射性の問題に気づかずに読み進めてしまった読者に,あらためて問題について考えさせて,反射性が不要であったことを確認してもらうという意図もあったかと思います。
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[2011年11月27日 初版をアップ]
(最終アップデート:2013年6月16日)
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