アマルティア・センの『集合的選択と社会的厚生』を開く

II.読解のポイントを探る 【P.15 L.22】

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検討項目

位置 検討する部分 種別 訂正案, コメント
P.15 L.22 (補題1*aについて) X  



1. 本書に記載の証明手続きについて
  • (1)の証明部分(P.16 L.4〜)
    • xIy&yIzからの1行目の展開は,以下の計算を(途中の計算を省いて)まとめて書いたものです。 (下では「⇔」を用いていますが,「⇔」は「→」かつ「←」の意味なのですから,もちろん「(左辺)→(4番目の式)」が成立します。)

      (左辺) (xRy&yRx)&(yRz&zRy)(※Iの定義(P.14 定義1*2))
        xRy&yRx&yRz&zRy (※括弧の省略)
        xRy&yRz&yRx&zRy (※入れ替え)
        (xRy&yRz)&(yRx&zRy)(※括弧の追加)

    • つまり,この部分の展開は基本的にIの定義によります。このあと,括弧は外してもよいこと,また出てきた4つの項は自由に順序を入れ替えてもよいことに注意します。(「&」(「論理積」つまり「かつ」)の計算は,通常の数学の「+」や「×」のように順序によらないためです。)
    • 2行目の展開は,以下の考え方によるものです。

      (xRy&yRz)&(yRx&zRy) xRz &(yRx&zRy) (※推移性の定義(P.12の(3)))
        xRz&(zRy&yRx) (※入れ替え)
        xRz&zRx (※推移性の定義)

    • つまり,2行目の展開は,基本的に2つの括弧について推移性の計算を施した結果です。この補題では,Rは準順序(反射性と推移性)ということになっていますから,その推移性を利用しました。
    • (なお,上記では式を縦にそろえるために「→」の表記を用いていますが,「入れ替え」部分についてはもちろん前の式との間に「⇔」が成立します。つまり,xRz &(yRx&zRy)⇔xRz&(zRy &yRx)です。)
    • 3行目は,1行目と同じく,基本的にIの定義によります。
  • (2)の証明部分
    • (2)の1行目の展開は,以下の考え方によるものです。

      (左辺) (xRy&~(yRx))&(yRz&zRy) (※PとIの定義(P.14定義1*1, 1*2))
        xRy&~(yRx)&yRz&zRy (※括弧の省略)
        xRy&yRz (※一部の項のみを選択)

    • つまり,Pの定義(P.14の定義1*1)とIの定義を用いたあとで,必要な2つの項のみを残しています。
    • 括弧の省略部分では,「→」という展開であって,「⇔」ではないことに注意します。「→」は,A&B&C&D&E→A&Cのように,一部の項目を選んで他を除いても問題ないことを思い出します。
      (例:「タマは猫だ&タマは黒い&タマはよく寝る→タマは猫だ」は問題のない推論と言えるでしょう。)
    • (2)の2行目の展開はRの推移性を用いた結果です。
    • さて,xRzが得られましたが,証明したかったのはこのことではありません。欲しい結論はxPzなのでした。xPzは,Pの定義から「xRzかつ~(zRx)」です。そこで(xRzが得られたことは意味があるのですが),もうひとつ~(zRx)を証明しなくてはなりません。
      (本文中の「(2)はzRxのときのみ...偽となりえる」はこの意味であり,(xRzが得られている以上)xPzを証明する上で,後は~(zRx)の確認が必要十分であること(もし逆にzRxとなると(2)の命題が偽になってしまうこと)の指摘です。)
    • 以下,~(zRx)であることを背理法を使って証明していきます。つまり,「~(zRx)でない」(つまり「zRxである」)ことを仮定して矛盾が生じることを証明していきます。
    • ただし,すでにxRzが証明されていたので,その上で「zRxである」と仮定するということは,「xRzかつzRx」を仮定することです。それは(Iの定義から),xIzと仮定することと同じです。よって,xIzと仮定して矛盾が生じることを考えてよいことになります。
      (本文中の「xIzと仮定せよ」はこの意味です。)
    • 以下の展開は問題ないでしょう。(急に登場するかのように見えるyIzは,もともと(2)の式の前提の1つでした。これがyIz⇔(yRz&zRy)⇔(zRy&yRz)⇔zIyのように変形された上で,(1)式と組み合わせて使われています。また,その後のxPyも,急に登場するように見えますが,もともと(2)の式の前提の1つでした。)
  • (4)の証明部分
    • 1行目でxRzが得られるまではこれまでと同様です。
    • 「(4)はzRxのときのみ,...偽となりえる」の文意も(2)の場合と同様です。
    • 「xIzならば,(3)およびxPyよりzPy」では,xIz⇔(xRz & zRx)⇔(zRx & xRz)⇔zIxと考えて,zIx & xPyから((3)を使って)zPyを得た,というように理解します。(xPyはもともと(4)の式の前提の1つでした。)
    • こうして得たzPyがyPz((4)の式の前提の1つ)と矛盾することを確認して証明を終えます。
  • なお,この補題1*aではRの準順序性(反射性と推移性)が前提されていますが,推移性のみが証明に使われており,反射性は不要です。この点にも注意します。
〔以下準備中〕





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[2011年11月26日 初版をアップ] (最終アップデート:2012年1月19日)


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