アマルティア・センの『集合的選択と社会的厚生』を開く

II.読解のポイントを探る 【P.3 L.3】

dss50.org

 

検討項目

位置 検討する部分 種別 訂正案, コメント
P.3 L.3 母国をロマンティックに美化して歌い上げることと,社会にかんする恣意的な目的関数を最適化すること Y3 抽象的な母国(motherland)のロマンティックな歌々を歌うことと,社会にかんする恣意的な目的関数で最適化作業をすること



  • 「母国をロマンティックに美化して歌い上げること」の部分は, 原文では"singing romantic songs about an abstract motherland"です。基本的には,「抽象的な母国についてのロマンティックな歌を歌うこと」と訳せる表現だと思います。
  • 現在の「美化して歌いあげる」という表現は, "abstract"を「現実をはなれるほどに理想的に思い描いて」あるいは「理念としての 国家を思い描いて」というように踏み込んで訳したものと思われます。
  • それは一理あるのですが, この「抽象的な母国」の「抽象」(abstract)の表現は, 第2段落の4行目と脚注1の3行目にある2つの「抽象」(abstract)の表現と呼応しているなど,文脈を確認する上で重要です。この観点から,変更せずそのままに訳すのがよいと思います。
  • 「社会にかんする恣意的な目的関数を最適化すること」の部分は, 原文では"doing optimization exercises with an arbitrary objective function for a society"です。基本的には,「社会にかんする目的関数を用いて最適化作業をすること」と訳せる表現だと思います。
  • 現在の「目的関数を最適化すること」は, やや簡略化された表現で, 目的関数の構造自体を最適化するようにも読めてしまう問題が あると思います。そのまま 「目的関数を用いて最適化作業をすること」とする方がよいかと思います。
  • "with an arbitrary objective function"の"with"を「に関して」と訳す案もあるかもしれませんが, 「目的関数を用いて最適化作業をする」というのはありがちな表現と思われますので,ここは普通に「を用いて」としてよいかと思います。 また冒頭段落を離れますが,本書では書籍全体としてパレート原理の恣意性の問題を検討しており, パレート原理に過度に依存することを問題視する文脈に立っています。 最終的に振り返ると,"doing optimization exercises with an arbitrary objective function"は, この本書の文脈を反映した表現で, 様々な問題に一様にパレート内包的な目的関数を適用して 答えを出そうとしていくアプローチを問題視しているものと思われます。この観点からも「を用いて」の訳の方が自然かと思います。
  • 以上から,第一の修正案として以下を考えました。
    「抽象的な母国についてのロマンティックな歌を歌うことと,社会にかんする恣意的な目的関数を用いて最適化作業をすること」
  • 続けて,少しアレンジを加えたものが以下の文案です。
    「抽象的な母国(motherland)のロマンティックな歌々を歌うことと,社会にかんする恣意的な目的関数で最適化作業をすること」
    • 「母国」だけではmotherlandのニュアンスを残しきれないものと思われたので,(motherland)を加えました。
    • 「歌」(songs)の複数形を表現するために「歌々」としてみました。(「作業」を複数形で表現する点は,とりあえず諦めました。)





本ページの概要とお願い:
  • 本ホームページは,Amartya Sen先生の『集合的選択と社会的厚生』(日本語版, 勁草書房)の 特定の記述項目について,読む上でのポイントを考えるものです。
  • 本ホームページの主旨や注意などについては,こちら(「読解のポイントを探る」項目リストページ)をご覧下さい。




[2011年8月22日 初版をアップ](最終アップデート:2013年6月27日)


「アマルティア・センの『集合的選択と社会的厚生』を開く」のトップページに戻る
「読解のポイントを探る」(項目リストページ)に戻る